政権から報道機関への圧力はあるのか!?

去る6月末に発売された「朝日ジャーナル緊急復刊号」で、ジャーナリストの池上彰氏が、TV放送に対する政権からの圧力の詳細を具体的に語っていると、ニュースサイト「リテラ」が報じたことで、ネット上では「池上氏が安倍政権のマスコミへの圧力を証言」として広く拡散されています。これに先立つ4月19日に発表された国連特別報告官デビット・ケイ氏による中間報告には、彼が日本滞在中、多くのジャーナリストが「政権から圧力を受けている」と証言したと書かれています。したがって、リテラの記事が本当であれば、池上氏の証言が重要な証拠になる可能性があります。

当会は、政治による放送への介入には一貫して反対する立場です。そこで、池上氏が何を語っているのか、問題の記事を確認してみました。

その記事は、池上彰氏と原寿雄氏(元共同通信編集主幹)による「重鎮対談 へたれメデイアを叱る 安倍政権という主人持ちのジャーナリストになるな!!」と題する対談記事です。

まず最初に池上氏は、国際NGO「国境なき記者団」が発表している「報道の自由度ランキング」で、日本が前年の61位から72位に下がったことに触れ、「2010年には11位だったことを考えると、急速に落ちています」と指摘しています。

昨今、この「報道の自由度ランキング」を取り上げた多くの報道が、その数字を無批判に受け入れ、一人歩きさせるばかりでした。しかし、このランキングで70位の韓国では、朴大統領に関する記事をめぐって産経新聞ソウル支局長が出国禁止処分を受け起訴されたことは記憶に新しいと思います(後に無罪判決を受け釈放)。そんな韓国よりも日本のランキングが下だと聞いたなら、納得する人はあまりいないのではないでしょうか。また、「特定秘密保護法」が日本のランク低下の理由とされることも不可解です。日本では、この法律による処罰は未だ一件もありませんが、このランキングの上位にある国々にも国家秘密保護のための法律があり、それに基づく処罰も多数実行されているのです。さらに言えば、2010年から今年までに、我が国では政権交代があったとはいえ、大きな政治体制の変化はありません。にもかかわらず、50以上もランクを下げるということ自体が、特定の政治的バイアスの存在を物語っています。これを「国際社会の評価」として無批判に紹介すること自体が、その特定の意図に協力した政治活動であるとも言えます。

一方、「フリーダムハウス」という米国の国際NGOが同時期に発表した「報道の自由2016」によれば、日本は44位ですが、アジア全体の中で「報道の自由がある」とカテゴライズされているのは日本と台湾だけです。もちろんこの「フリーダムハウス」にも政治的な意図はあると見られるので、この評価が正しいと断定できるわけでもありませんが、このような相対的な視点をテレビ報道はほとんど取り上げず、「日本では報道の自由が危機に瀕している」というストーリーに適した事柄だけを視聴者に伝えようとしてきました。池上氏の取り上げ方も基本的にそれと同様と言えます。

その上で池上氏は、「国が報道の自由を制限しているのか、それとも報道機関の側が勝手に自主規制したり、忖度(そんたく)したりして、自ら自由を狭めているのか。日本では後者が多いような気がします」と述べて、問題の多くは報道機関側の「自主規制」にあると指摘していますが、そこで池上氏が「自主規制」の例として最初に挙げているのは、高市早苗総務相が国会答弁で「政治的公平性を欠く放送を繰り返した放送局に電波停止を命じる可能性」に言及したことについて、ジャーナリストらが開いた抗議会見を、「NHKは取材にも行かなかった」という事実です。これを池上氏は「情けないですね」と批判しています。

ちなみに当会では、高市総務大臣のいわゆる「電波停止発言」については、野党の質問を受けて現行法に則った答弁をしたもので、電波を停止するという積極的な意図はなく、ただ法理上は可能であるから、未来永劫決して行わないとは言えないと言っているに過ぎないと考えています。これを大問題であるかのように取り上げた一部の報道や、この答弁に「怒って」記者会見を開くなどという行動は、相当の誤解または恣意性に基づいていると言わざるをえません。仮に放送法第4条が倫理規定であったとしても、問題はその常識的な指針にのっとる努力がなされているかどうか、です。倫理規定に過ぎないから無視してもよい、ということにはならないはずです。

さて、次に池上氏が語っているのが「政権からの圧力」についての話ですが、リテラでも引用している発言は以下のようなものです。
「最近までは権力を持つ側は『メディアに圧力をかけてはいけない』というのが共通認識でした。(略)ところが、安倍政権になってからは、自民党はおもなニュース番組をすべて録画して、細かい部分まで毎日のように抗議し、訂正を求め、注文をつけてくる。すると、テレビ局は『面倒くさい』となる。対応が大変で、次第に『文句を言われない表現にしようか』となってしまうのです」

この話が本当だとすれば、池上氏自身を含めてメディアが取り上げれば大きな問題にすることができるでしょう。しかし、そのためには具体的な裏付けとなる事実が必要です。池上氏には是非、検証可能な具体例を示して頂きたいと思います。

ところで、上記の池上氏の発言と同様の話をした人がもう一人います。先の東京都知事選挙に立候補したことが記憶に新しい鳥越俊太郎氏がその人です。「高市総務大臣の発言に抗議したジャーナリスト」たちが、外国特派員協会で記者会見を行った際に、その発言はありました。会見の質疑応答で、「取材や報道を理由にジャーナリストが逮捕されたりする状況は日本にはないのに、なぜメディアがそれほど萎縮するのか、どういう圧力があるのか」という質問がありましたが、これに答える中で鳥越氏は以下の発言をしました。

「わかりやすい形でメディアがプレッシャーをかけられて萎縮しているということではなく、目に見えない形で、気がついたら後退していたのが現実でしょう。(中略)メディアが権力を監視するのが世界の常識だが、日本では権力がメディアをチェックするということに今なっているわけです。で、一つ一つの番組を記録して、問題あると思ったら誰かしかるべき人に言うとか、オフ懇で言うとかして政権側の意思を伝える、ということを日常的にやっているわけです。だから日本のテレビ局はどんどん物を言わなくなって、これ以上言ったら地雷を踏むというような手前で止まっちゃう。」

もしや池上氏の話は、鳥越氏から聞いたこの話が元になっているということではないのでしょうか。鳥越氏は、その話を誰から聞いたのでしょうか。いずれにしても、確たる根拠がないまま、こうした伝聞のような情報を広めることは極めて無責任なことであり、ジャーナリストとしての矜持が問われねばならないと指摘せざるをえません。

一方、池上氏がもう一つ「圧力」の例として挙げているのは、自身の体験による事例です。
「私が特定秘密保護法についてテレビで批判的な解説をした時も、すぐに役所から『ご説明を』と資料を持ってやってきた。こういうことが日常的にあるわけです」

もしも、この役人による「ご説明」への対応次第で池上氏の立場に何らかの影響がある恐れがあったのならば、それは明らかに圧力ということになりましょう。しかし、池上氏ほど影響力のあるジャーナリストに誤解されては困る、説明したい、と感じるのは当然のことであって、それを圧力と受け取るのは過剰反応ではないでしょうか?そして結果として、池上氏は「萎縮」などしていないと見受けられます。「へたれメディアを叱る」という対談のタイトル通りならば、こんなことは圧力として受け止める必要はない、自身のように自主自律の精神を堅持すればよいと、後輩たちを激励するべきところではないでしょうか。

当会は、「政府による報道への圧力」、「報道機関による忖度、自主規制」のいずれにも反対いたします。しかし、事実的根拠のない「圧力」をさも実在するかのように言い広める行為は悪質であり、看過するべきでないと考えます。リテラがこの池上氏の対談記事を「政権からの圧力の詳細を具体的に語っている」として広めたことも、実に無責任と言わざるをえません。

ところで、当該対談記事で池上氏の相手を務めている原寿雄氏の話も興味深く拝読しましたので、最後に言及しておきます。

池上氏は、メディアの「萎縮」の原因として「政権の圧力」の他に、視聴者からの抗議、いわゆる「電凸」を挙げていますが、それに対して原氏は次のように述べています。

「私はメディア自身も権力化していることが問題だと思っています。それでも国民によるメディアへの監視が厳しくなり、対抗できるようになってきた。それではじめてメディアと国民が対等になれるんです。」

さらに原氏は、「大衆の抗議」に対するメディアの対応について「勝ち続けではダメです。メディアと大衆が戦って、たまにはメディアが負けてもいいんです」と述べています。

これに対して池上氏が「たまにではなく、最近はよく負けてます(笑)」と指摘すると、答えて原氏は「もちろん、排他的な熱狂に圧倒されてメディアが負けてしまうのは良くないですよ。ただ、民主主義では、批判されたら反論できる。その場をメディアが設定できるわけです。総括することが大切ですね。それが民主主義なんです」と語っています。

このような原氏の考え方と、当会の問題意識とは共通するものがあります。「メディア自身も権力化している」という事実認識は、まさに当会の発足の理由と言ってもよいものです。当会が「国民による監視の目」を代表しているとは申しませんが、当会が提起した問題を契機として、放送というメディアのあり方を考える議論に、より多くの方に加わって頂きたいと願って活動しているところであります。

一方、原氏の発言の中には、現今の在京TV局における報道の在り方に通じていると感じるものもありました。例えば原氏は自らのジャーナリズムの原点について、こう答えています。

「僕は自らが体験した戦争中の日本を否定することで、新しい時代を作ろうと思ってジャーナリストとして仕事をしてきました。しかし、安倍さんが書いたり話したりしていることを読むと、安倍さんは我々の世代が否定した日本を生き返らせようとしているのではないでしょうか」

もちろん、先の大戦について深い反省や考察を傾けることは大切です。昨年の安倍首相による「戦後70年談話」は左右両陣営から批判されましたし、実際の政策、行動については各自が判断し、必要と思う時に批判していけばいいことです。

しかしながら、「戦争中の日本を全否定すること」を大前提とし、否定をしなければ民主主義の敵とでもいうような、排他的な思い込みに囚われて「ジャーナリズム」に携わってきたとしたら、自らが正義と信じる意見を全面的に展開し、自らが異端視する考えを報道から締め出すことが有っても良いと考えるでしょう。そうだとすれば、戦争に非協力的な者を「非国民」とした戦時中のメディアと、実は本質的に変わりないのではないでしょうか。そのような排他的な発想が日本のメディアに根強くあることが、昨年の安保法案に対する報道のように、賛成論が存在しないかのような、一斉で一方的な報道姿勢や、岸井成格氏の「メディアとして(安保法の)廃案に向けて声を上げ続けるべきだ」という発言にもつながったのではないか。そのように推察することができます。

前述の「報道の自由ランキング」の報道を見ても、異論を挟むことを許さない一方的な姿勢が垣間見えます。これはもはやジャーナリズムではなく、プロパガンダの領域であって、池上氏にはその領域に足を浸して頂きたくありません。一般視聴者からの放送への抗議が増えている背景にも、インターネットでは容易に知ることができる多角的な情報を、恣意的に排除し続ける放送事業者の頑な姿勢に、少なからぬ視聴者が苛立ちを覚えていることの表れと考えることはできないでしょうか?

国民が、正確かつ多様な情報を受け取った上で、各自が冷静に検討し、我が国の主権者としての責任ある判断をしていく。それを可能とするためには、放送法を遵守した放送、すなわち「政治的に公平で、事実を曲げず、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」放送が必要だと当会は考えます。そのため、今後とも冷静な議論を喚起する活動を、虚心坦懐に進めてまいる所存です。

去る8月6日午前、沖縄県・尖閣諸島周辺の接続水域に「中国海警局」の船6隻が入り、その周辺を中国漁船約230隻が航行しているのを海上保安庁が確認、外務省が中国側に抗議しました。

 

この事案について「テレビ報道がほとんど取り上げなかった。重要な事案なのにおかしいのではないか」との意見が当会に寄せられました。

 

そこで、8月6日の当日、在京キー局各社がこの件をどのように伝えたか、あるいは伝えなかったかについて調べてみました。(文中及び表中の時間表記は当会による計測結果。1つのニュースの途中でCMが入る場合、CMの時間は除外)。

 

1.各局の報道

 

◆NHK

午後6時から10分間のニュースで初めてこの件を伝えました。(1分30秒)

NHKニュース(午後6時〜6時10分)

38度超の猛暑日 明日も熱中症警戒 1分35秒

熊本空港で小型機 着陸に失敗 けが人1人 1分40秒

接続水域に中国海警局の6隻 周辺に漁船約230隻 外務省 中国大使館に抗議 1分30秒

「原爆の日」ワシントンでも追悼式 1分33秒

リオ五輪 日本人ボランティアも活躍 2分05秒

民進党 岡田代表 蓮舫氏支持の考えにじませる 1分08秒

一方、午後7時からの30分番組「ニュース7」では、この件を全く報道しませんでした。トップで取り上げたリオ五輪の話題には約10分を割き、続いて「広島原爆の日」の話題を約6分、「熱中症に警戒、大気不安定」という気象の話題を4分50秒伝えました。さらに、相模原市での障害者殺傷事件の続報、米中の外相が北朝鮮への対応を協議した件、熊本空港で小型機が着陸に失敗し1人が怪我をした件、元横綱千代の富士の通夜について伝えましたが、結局、尖閣諸島の件には一切触れませんでした。

午後8時45分から9時までのニュース番組でも、尖閣諸島の件は取り上げませんでした。

しかし、オリンピック中継の合間の翌午前1時2分から7分までの5分間のニュースでは、トップでこの件を扱いました(1分30秒)。

「接続水域に中国海警局の7隻 周辺に漁船 約300隻 外務省 中国側に重ねて抗議」として、午後からの新たな動きを加えた報道を1分30秒行いました。その後は「ボートが防波堤に衝突 11人けが」とのニュースと、オリンピックの話題を伝えました。

 

◆日本テレビ

この日、尖閣諸島のニュースは一切報道しませんでした。

この日の報道番組は「ウェークアップ!ぷらす」(午前8時〜9時25分)「NNNストレイトニュース」(午前11時25分〜35分)「news every.サタデー」(午後5時〜5時30分)「Going!Sports&News」午後11時55分〜翌午前1時5分)がありましたが、そのいずれでも尖閣諸島の案件は取り上げませんでした。

 

◆TBS

午後5時30分からの「報道特集」の中で尖閣諸島のニュースを伝えました(43秒)。

この番組では毎週、長時間を割いた特集が放送されますが、特集の前に放送される通常のニュースの枠内で、尖閣の事案が伝えられました。

報道特集(午後5時30分〜7時)

被爆71年広島原爆の日 「オバマ演説」引用の平和宣言 3分17秒

「南米で初 リオオリンピック開幕/会場の外で見えてくる課題」 3分51秒

列島各地で今年一番の暑さ 1分00秒

米シカゴ 丸腰の黒人男性に警官が… 1分13秒

障害者施設殺傷事件 入所者の家族ら対象に説明会 1分25秒

熊本空港で小型機事故 1人けが、滑走路は閉鎖   41秒

尖閣周辺の接続水域に海警局含む中国船236隻   43秒

NYでもヒロシマ犠牲者追悼集会 1分00秒

神奈川・小田原市 トラックと衝突 原付きの男性死亡   55秒

トラックと衝突 タクシー乗客の女性らけが   51秒

(特集)ヘリパッド建設工事「やんばる」の森で何が 19分45秒

(特集)原爆投下当日に走った列車 27分51秒

リオ五輪 2分43秒

メジャーリーグ(イチロー)/プロ野球 1分13秒

この後の報道番組は、午後8時54分から9時までの「フラッシュニュース」と、午後10時から11時24分までの「新・情報7Daysニュースキャスター」がありましたが、いずれにおいても尖閣諸島の件は報道されませんでした。結局、この日TBSが本件を伝えたのは「報道特集」の中での43秒だけでした。

 

◆テレビ朝日

午後4時30分からの「スーパーJチャンネル」で尖閣諸島の件を取り上げました(55秒)。

スーパーJチャンネル(午後4時30分〜6時)

リオ五輪 15分40秒

各地で体温超えの暑さ 2分17秒

(週刊ニュースランキング)住宅街を鹿が爆走 1分20秒

(週刊ニュースランキング)ニホンザルで初確認、睡眠中の”微笑” 1分08秒

(週刊ニュースランキング)パラシュートなし世界初のスカイダイビング   52秒

(週刊ニュースランキング)妻夫木聡さん結婚へ お相手はマイコさん 1分20秒

(今週の注目)小池清都知事に都議会のハードル/どうなる?東京五輪経費 6分07秒

(週刊ニュースランキング)TOKIO山口達也さん離婚『すべて自分の甘さ』 1分15秒

ロボットが世界を変える!? 15分58秒

地下鉄駅で天井崩落(中国・上海)   35秒

逮捕 飲酒事故の前に当て逃げか   45秒

(リオ五輪)ついに開幕 直前まで大混乱   45秒

8万大観衆 史上最多の参加 開会式はブラジル歴史を… 4分32秒

夏本番アツ〜い!35度以上が今年最多 3分38秒

広島で「原爆の日」 3分19秒

侵入 中国漁船230席が/尖閣周辺に中国船230隻 ”武器搭載”の海警船舶も   55秒

“山の日”前に注意を 1分00秒

スポーツ(リオ五輪等) 2分11秒

小型航空機が着陸失敗60代の男性1人がけが   53秒

痴漢 神戸市職員の男逮捕 1分04秒

相模原 現場の施設で保護者会   57秒

体験  夏休みの子どもに科学を 1分11秒

天気 2分55秒

この番組では尖閣諸島の事案を報道するまでに、番組開始から約1時間12分が経過しました。番組途中の午後5時から放送地域が変化するため、仕切り直しのようにリオ五輪関連と猛暑の話題を再び放送し、次の「原爆の日」の話題の後に尖閣の事案が取り上げられました。

 

◆フジテレビ

「みんなのニュース」(午後5時30分〜6時)で取り上げました(44秒)。

みんなのニュース(午後5時30分〜6時)

リオ五輪 8分11秒

被爆から71年 平和記念式典/オバマ氏と抱擁 被爆男性の思い 4分45秒

113地点で猛暑日 東北〜九州で猛暑 1分36秒

小型機が着陸に失敗   29秒

被害者と面識なし 84歳女性殺害 1分24秒

あと2本 達成は持ち越し イチローきょうも   26秒

障害者施設殺傷 入所者の親族に向け説明会/4月にも衆院議長公邸訪れ・・・ 1分15秒

安倍首相「核保有・検討もあり得ない」   59秒

尖閣周辺に中国公船 政府 中国側に厳重抗議   44秒

フランスのバーで火事13人死亡   45秒

天気 2分03秒

世界最大級 アイドルフェスティバル   58秒

 

◆テレビ東京

尖閣諸島のニュースは一切報道しませんでした。この日のニュース番組は午前11時から11時3分までと午後5時20分から30分までの「TXNニュース」だけで、いずれも「リオ五輪」と「原爆の日」の話題のみ報道しました。

 

2.所感

以上の検証の結果、テレビ東京と日本テレビ以外では当日の尖閣諸島周辺の事案を取り上げていたことがわかりましたが、いずれの報道番組でも扱いは小さかったと言えます。まずこのことに対して疑問を感じずにいられません。

当会の発足時に取り上げた「安全保障法制」に関する報道は、多くの報道番組が積極的に行い、特に一部の放送局が非常に大きな時間を割いて報じ続けていました。それほどテレビ報道従事者の関心が安全保障の問題に対して高いことから考えると、今回の尖閣諸島周辺の事案に対しては、あまりにも反応が鈍いと言えるのではないでしょうか。

また、この件に関する報道が、ほとんど海上保安庁と外務省の発表内容を伝えただけであったのも気になるところです。映像も、第11海上保本部が提供した静止画像や、過去に撮影された尖閣諸島の資料映像のみを使用した報道ばかりで、現場の映像を捉えた放送は一つもありませんでした。

最近、尖閣諸島の問題に対して国民の関心はあまり高くなく、多少の状況変化には慣れてしまっているということも否めませんが、この度のことは「異例の事態」には違いないのであって、最大でも1分半ほどの報道しかないということで良いとは思えません。当会スタッフで、海外生活の経験が長い一人は「他国にこんなことが起こったら緊急報道特番が放送されるはず」と言います。しかし我が国では、平日よりもニュース枠が少ない土曜日の番組編成に変化は全くありませんでした。せめて、有識者の話を電話で聞くぐらいのことをする局があっても良かったのではないでしょうか。

この日はリオデジャネイロ五輪が開幕した日で、多くの報道時間がオリンピックに割かれることはやむをえなかったでしょう。中国側の行動もそのことを計算に入れてのことであろうとも推察されます。しかし、そうだとすれば、今回の各局の姿勢は、中国側の思惑にすっかりはまってしまったことにもなります。

ところで、この日の報道の中で不可解なのがNHKの報道の仕方です。午後6時からの10分間のニュースと、翌午前1時2分からの5分間のニュースでは本件を取り上げているのに、午後7時からの30分間のニュースと、8時45分から15分間のニュースでは取り上げなかったのはなぜでしょうか。

この日の午後になって、接続水域に入った中国公船が6隻から7隻に、漁船が200隻から300隻に増え、外務省が重ねて中国側に抗議したという事態の変化がありましたが、この変化を踏まえた続報を午前1時2分から5分間のニュースではトップで報じているところを見ると、この事案の重要性は相当程度認識していると思われるのに、最も多くの人に視聴されている時間帯の2つの報道番組では取り上げなかったというのは、実に中途半端で不可解な報道姿勢と思わざるをえません。

また、この日接続水域に潜入した中国公船は、「外見上3隻が武器を搭載していた」という事実について、TBS及びテレビ朝日の報道では言及していましたが、NHK及びフジテレビの報道では言及がありませんでした。外務省が発表した事実から、この件を省略して報じる理由がわかりません。この事案が安全保障上の脅威を孕んでいることを示す重要な事実なので、報道するからにはこの件には言及するべきであったと考えます。

オリンピックは当然、国民の高い関心が見込まれる事柄であり、また「原爆の日」は我が国の社会通念上、必ず報道されるべき事柄ではありましょう。しかし、何が起きてもこの2件だけ大きく報じておけば良いというわけではありません。

今回の「無報道」、または「短時間での報道」が、単に無関心によるものなのか、なんらかの理由に基づく意図的なものなのか計り兼ねますが、この度の事案のような、安全保障に関わる異例の事態に対して、視聴者の関心を喚起する報道を行うことこそ、国民の「知る権利」に資する報道と言えるのではないでしょうか。

3.NHK及び日本テレビへの質問と回答

上記の調査に基づいて、当会はNHKに対し、8月6日の放送について以下2点の質問をしました。

 

質問1

7時のニュースはゴールデンタイムとされ、夕食時に見るなど視聴率も高い時間帯であるが、この時間に、関心の高い中国船侵入に関するニュースを外した理由をお聞かせください。

 

質問2

外務省発表によると、船が武器を搭載しているという情報があるが、この事実に触れなかった理由をお聞かせください。

 

これに対し、NHKの回答は以下の通りでした。

 

放送法遵守を求める視聴者の会 御中

 

件名:ご質問へのお返事

連絡事項

 NHKでは、ニュース報道については報道機関として自主的な編集判断に基づいて放送しています。また、放送にあたっては国内番組基準を設け、この中で、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、故迭による言論と表現の自由を確保し 豊かで、よい故送を行う旨を明記しています。この基準に基づき、報道の担当責任者が具体的な対応を絶合的に判断し、ニュースおよびニュース番組を制作しています。 実際の業務運営においては、それぞれの責任者が時間帯ごとに、租当者とも協議しながら、その日に起きたきまぎまな分野のニュース全般を見渡しつつ、さまぎまな要素を勘案し、重要度や緊急度、さらには視聴者の関心の度合いや広がりといった要素をもとに総合的に判断し、限られた放送時問に収めるようにしています。

個別のニュースや番組の編集判断を明らかにすることは、放送の制作・編集についての自由が損なわれるおそれもあることから、従来からお答えしておりません。

なお8月6日(土)に「中国海警局の船6隻が接続水域に人ったことが確認され、外務省が中国大使館に抗議した」という内容の第1報を18時の全国ニュースで報じて以降、7日(日)午前1時の最終ニュース、おはよう日本の7時台で報じました。その後、「7日午前中に、うち2隻が日本の領海に侵入したことが確認された」 として、全国ニュースの12時台、15時台、ニュース7、8日(月)のおはよう日本の7時台などで随時、報じております。

なにとぞ、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

以上がNHKによる回答です。

結果として、当会の質問には全く回答していただけなかったので、8月6日のゴールデンタイムに本件の報道が省かれた理由も、午後6時と翌午前1時のニュース報道した際に「武器を搭載した船」に言及しなかった理由も知ることができませんでした。

確かに、翌7日、中国船のうち2隻が我が国の領海内に侵入した際には、午後7時のニュースも含めて取り上げるなど、NHKが本件にある程度の関心を払っていることは認められます。そうであればなおのこと、外務省が2度にわたって中国側に抗議をした当日に、午後7時からの30分のニュースで取り上げなかったことへの疑問が残ります。

また中国海警局の船3隻が外見上武器を搭載していた事実には、テレビ朝日やTBSは1分未満の報道の中でも触れている一方、NHKでは1分半の報道の中で言及しませんでした。このことがどういった判断によるのか知りたいところでありましたが、今回の回答では叶いませんでした。

個別のニュースや番組の編集判断についての質問に対しては、「放送の制作・編集についての自由が損なわれるおそれもあることから」答えない、という答えが従来からの定型文であるようです。しかしこうして、報道の編集判断についての質問を何もかも拒絶する姿勢は妥当なのでしょうか。

確かに、放送事業者には「編集の自由」があり、何人からも干渉されるべきでないとされています。しかし、限られた電波という公共財を用いる放送事業者に対し、視聴者が質問し答えを求める権利もあるはずです。ましてやNHKは国民の視聴料で成り立つ「公共放送」です。そのNHKが、番組の編集判断に対する質問の全てを「干渉」として拒絶するとしたら、それは「編集の自由」という言葉のもとに、視聴者側の自由と「知る権利」とを否定することになるのではないでしょうか。

 

当会の質問は、例えば特定の芸能人の動向を伝えるべきなどといった手前勝手な要望に基づくものではなく、国の安全保障上の脅威をはらむ問題であり、外務省が1日の間に2度にわたって中国側に抗議をしなければならなかったという重大案件について、明確な調べに基づいて質問したものです。これに対して全く見解を示さないのは、傲慢な姿勢であると言わざるをえません。NHKにおかれては、是非この点の改善を求めたいと思います。

 

日本テレビに対しては、本件について8月6日に一切報道が無かったことについて理由を尋ねる質問を8月26日に致しました。これに対し、30日、日本テレビより『翌7日の午後6時からの「真相報道バンキシャ」では取り上げた』との回答が電話にてありましたが、8月6日に本件の報道がなかったことについては、追って担当部署より連絡するとのことでした。本稿作成時点(9月1日)では、追加の回答は届いておりません。

なお、同じく8月6日に本件について報道がなかったテレビ東京については、当日まとまった時間の報道番組がなかったことから、特に質問を送ることはしませんでした。

以上