「三笠宮崇仁親王殿下、薨去(ご逝去)」を各局はどう伝えたか

「三笠宮崇仁親王殿下、薨去(ご逝去)」を各局はどう伝えたか

平成28年10月27日、三笠宮崇仁親王殿下が薨去されました。ここに謹んで哀悼の意を表します。

天皇陛下の叔父にあたられ、昭和天皇の弟君であられる三笠宮殿下は、皇族としては明治以降最高齢の100歳で薨去されるまで、多岐にわたる経験、活動をしてこられました。まさに昭和という激動の時代を体現された御生涯であったと言えましょう。

そこでこの度、本件をテレビ報道がどのように伝えたかを、同日の在京キー局における夜の主要な報道番組において比較してみることといたしました。

三笠宮殿下は戦前には軍人として戦地に赴かれましたが、戦後は歴史研究者として国内外で活躍されました。そしてダンスの名手としても知られ、ダンス等レクリエーションの普及に尽力されました。

そこで、以上の3つの活動、「軍人(戦争関連)」「歴史研究」「ダンス等レクリエーションの普及」に関する場面が、報道の中でどれだけあったかを各番組で計測してみました。また「軍人(戦争関連)」の中で、特に戦争の反省や、当時の日本軍への批判が強く現れた場面については、その場面の時間計測とともに内容について記載します。

なお、一部複数の活動が同時に描写された場面もありましたが、その場合はいずれにも加算をしています。

1.NHK ニュースウォッチ9
トップニュースとして報道。検証対象番組の中では最も長く約16分の報道でしたが、その中で、「軍人(戦争関連)」と見られる場面は3分5秒でした。殿下と同じ連隊に所属していた99歳の男性が、軍人時代の殿下の思い出やお人柄について証言する場面に多くを割いていました。一方、戦争の反省や、当時の日本軍への批判を伝えた場面は18秒ありましたが、そこでは殿下の著書「わが思い出の記」から、以下の文を紹介しました。

『いわば「聖戦」というものの実態に驚き果てたのである。罪もない中国の人民にたいして犯したいまわしい暴虐の数かずは、いまさらここにあげるまでもない』

「歴史研究」の場面は3分30秒あり、殿下御自身が研究の動機を語られた場面もありました。「ダンス等レクリエーションの普及」の場面も2分16秒ありましたが、いずれの場面でも殿下のお人柄に重点が置かれていました。

ちなみに、この報道の開始後約3分半、若き日の軍人としての三笠宮殿下を紹介し始めてから、この報道の終わり近くまでの約10分間にわたって、画面右上には「気さくな人柄で活躍 多方面に」というテロップが表示され続けました。これは後述するTBSやテレビ朝日の編集とは対照的なものとなっています。

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2.日本テレビ「NEWS ZERO」
番組の後半に約1分50秒報道。「軍人(戦争関連)」の場面が17秒、「歴史研究」には6秒、「ダンス等レクリエーションの普及」には5秒を割いていました。

「戦争の反省、日本軍への批判」と受け止められる場面は10秒で、殿下のご著書「古代オリエント史と私」から以下の言葉を引用しました。

「今もなお良心の呵責にたえないのは、戦争の罪悪性を十分に認識していなかったことです」

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3.テレビ朝日「報道ステーション」
トップで約14分間(うちCM約2分)報道。NHK「ニュースウォッチ9」と同じく、三笠宮殿下の部隊に所属していた99歳の男性が、殿下のお人柄等を語る場面がありました。

「軍人(戦争関連)」の場面は5分2秒、「ダンス等レクリエーションの普及」の場面は32秒、「歴史研究」の場面は6秒でした。殿下の歴史研究に言及する場面はVTR中にはなく、スタジオでコメンテーターの後藤謙次氏が「陸軍参謀というよりは教壇に立たれた古代オリエントの歴史学者というイメージが非常に強い」と語った場面だけでした。

「戦争の反省、日本軍への批判」と受け止められる場面は合計2分42秒で、該当する場面は3箇所ありました。

一つ目は、途中CMに入る前、軍服姿で馬に乗る殿下の映像を背景に、引用元を明記せず以下の言葉を伝えました。『「聖戦」とか「正義」とか、よく叫ばれ宣伝される時代ほど、事実は逆に近い』

2つ目は、「若杉参謀」の名で中国に赴任されていた三笠宮殿下が、離任に際して将校を集めて講和をされた際の記録から、以下の言葉を引用した場面です。

『言論は極度に弾圧されており、少しでも日本に不利な発言をしたり、あるいは日本を批判する者は「国を売る者」などといわれ、一般幕僚(参謀など)匂いては大胆なる発言は困難である。私は幕僚の末席にありながら、僭越を顧みず、特に発言するところである。』

(ナレーター:戦争批判、軍部批判がタブーだった時代に、あえて発言すると言い切った三笠宮さま。まず、満州事変と、中国全土に戦線が拡大していった日中戦争について、現地の日本軍を厳しく批判していました)
『両事変とも、陛下のお考えまたはご命令で戦闘が生じたのではなく、現地軍が戦闘を始めてから、まことに畏れ多き言葉ではあるが —— 陛下に後始末を押しつけ奉ったとでも言うべきもの』

(ナレーター:そして、中国大陸について日本に欠けているものについては)

『真に誠心をもって、民衆を愛し、徳政を行い、中国4億の民に安居楽業を与えるのが目的でなければならない』
(ナレーター:最後に、日本の軍人に猛省を促されていました。)

『現在、日本人の、特に軍人にかけているものは「内省」と「謙譲」である。「新聞」「ラジオ」は日本人の悪いことは言わないし、また相手の良いことは言わない。我らはこれに惑わされてはならない。』

3つ目は、上記の講話でのご発言について、ノンフィクション作家・評論家の保坂正康氏が以下のように語った場面です。
『勇気ある発言だと思いましたね。ああいう発言というのは、はっきり言えば日本軍が中国でどういうことをしたか、言ってみれば残虐行為ですね。それを具体的に語っているわけですね。で、「どうしてこういうようなことを行うんだろう、こういう軍隊なんだろう」というのは、三笠宮殿下自身の中にすごい悩みと苦しみがあったと思うんですね。』

ところでこの報道では、開始後約6分のCM明け直後から終了に至るまで、画面右上に『三笠宮さま ご逝去100歳 戦争中 中国で「軍部批判」』とのテロップが7分30秒にわたり表示され続けました。これを算入するとすれば、正味12分間の報道の中で「戦争の反省、日本軍への批判」が7分40秒あったということになります。
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4.TBS「NEWS 23」
番組開始後約20分頃から、4本目のニュースとして4分40秒報道。

冒頭のテロップでは「100歳でご逝去」と小さく表示しながら「三笠宮さま 戦争への深い思い」と大きく表示したので、この部分は「軍人(戦争関連)」と計測しました(16秒)が、このとき同時にダンスを踊られる殿下の映像も紹介されました(9秒)。

「軍人・戦争関連」の場面は合計で1分18秒、そのうち「戦争の反省、日本軍への批判」と受け止められる場面は37秒。「自叙伝には、当時の日本軍の振る舞いを厳しく批判する記述も。」として、ご著書「古代オリエント史と私」から以下の言葉を引用しました。

『ある青年将校から、兵隊の胆力を養成するには、生きた捕虜を銃剣で突き刺させるにかぎると聞きました。また、多数の中国人捕虜を貨車やトラックに積んで満州の荒野に連行し、毒ガスの生体実験をしている映画も見せられました。「聖戦」のかげに、じつはこんなことがあったのでした。』

「歴史研究」には40秒、「ダンス等レクリエーションの普及」には合計18秒を割いていました。

ちなみに、上記自叙伝の紹介以降、画面右上に『三笠宮さま 100歳でご逝去 日本軍を批判「聖戦の陰に…」』というテロップが表示され、「歴史研究」の場面でもこれが表示され続けていました。このテロップを算入した場合は、4分40秒の報道のうち、「戦争の反省、日本軍への批判」の場面が1分19秒となります。

最後に、翌日から赤坂御用地内の三笠宮邸前に一般向けの記帳所が設けられることが告げられました。
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5.テレビ東京「WBS」
トップで1分30秒報道。

三笠宮殿下が明治以降の皇族では最も高齢の100歳であられたことと、今年5月に入院されてからの経緯を伝えて、翌日午前9時から一般記帳の受付が行われること、「斂葬の儀」が11月4日に行われることを報じました。

御生涯における活動に言及する場面はありませんでした。
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6.フジテレビ「ユアタイム」
番組開始後12分ごろ、3本目のニュースとして55秒報道。
三笠宮殿下が明治以降の皇族では最も高齢の100歳であられたこと、三笠宮邸に向かわれる天皇皇后両陛下、皇族方や安倍総理大臣らが弔問に訪れたことなどを伝え、最後に「斂葬の儀」と「一般記帳」の予定に触れました。

御生涯における活動に触れる場面はありませんでした。
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7.「薨去(こうきょ)」という用語について
皇族が亡くなられた際には、正式には「薨去」という言葉が用いられますが、検証対象番組の中でこの言葉が伝えられたのは、宮内庁による発表の場面の中だけでした。この場面があった番組は、NHK 「ニュースウォッチ9」、日本テレビ「NEWS ZERO」テレビ朝日「報道ステーション」でした。

しかしそれ以外の場面で「薨去」という言葉を用いた番組はなく、すべて「ご逝去」または「逝去」という言葉をテロップに用いました。(フジテレビ「ユアタイム」のみ「逝去」)

また、キャスターやナレーターはすべての番組で「亡くなられました」と述べていました。

8.一般の記帳受付と「斂葬の儀」
翌28日から三笠宮邸前で一般記帳を受け付けることを伝えたのは、対象番組の中ではTBS「NEWS23」、テレビ東京「WBS」、フジテレビ「ユアタイム」の3番組で、他はこの事を伝えませんでした。また、NHK「ニュースウォッチ9」とテレビ朝日「報道ステーション」は、11月4日に「斂葬の儀」が行われる事も伝えませんでした。

9.検証者所感
三笠宮殿下は戦後、長きにわたって歴史研究に取り組まれ、またダンス等レクリエーションの振興にも尽力さましたが、歴史研究の道に進まれるにあたり「戦争体験」が大きな影響を与えたことは事実ですので、これをある程度伝えることには一定の意義があると思われます。ただ、このようにして全在京キー局の主要報道番組による報道の仕方を概観すると、それぞれの伝え方の特徴を見て取ることができます。

本件を短く伝えたフジテレビとテレビ東京以外は、すべて何らかの形で「戦争の反省」というメッセージを伝えたことになりますが、NHK「ニュースウォッチ9」、TBS「NEWS23」テレビ朝日「報道ステーション」においてはいずれも、「中国で日本軍による暴虐があった」ことをクローズアップした場面がありました。特にTBSとテレビ朝日の報道は「戦争の反省、日本軍への批判」に長時間を割いており、テロップにおいてもそうした文言を長く表示しています。このことから、そこに重点を置いて伝えるという番組制作者の強い意図が見て取れることは確かであると思います。

ここまでお伝えした事実を踏まえて、この度の報道をどう評価するかについては、視聴者の皆さまに委ねたいと思います。
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