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豊洲市場“柱の傾き”報道に関する検証と所感

 

~事実を曲げて柱が傾く!?~

10月2日に放送されたフジテレビ「新報道2001」において、東京都の「豊洲市場」に関する問題についての報道の中で、市場の建物の柱が傾いている疑いがあると指摘する報道がありましたが、のちにそうした事実はないと判明。翌週10月9日の同番組内で「誤解を招いた」ことを認めました。この件について以下に検証します。

1.報道内容要旨
番組冒頭のVTRでは最初に、小池東京都知事が9月30日の定例会見で、豊洲市場の「地下空間」について、盛り土をしないということをいつ誰が決めたのか特定できなかったと述べたことを紹介。ナレーションが『どれだけの人が納得できたのだろうか』と述べて、都側の姿勢が垣間見える例を紹介しました。

「地下空間」の存在が明るみに出る8日前の9月2日、番組側からの「地下にある空洞4メートルは何を目的に作られた空洞でしょうか」という質問に対し、都側からは「1階床下に排水管などを横引きするためにこの空間を活用しています」との回答があったとのこと。しかし一昨日(9月30日)の知事会見では、この地下空間が「モニタリング用の空間」であると発表されました。2009年の資料で、すでに地下空間は「モニタリング用空間」であると位置付けられていたにもかかわらず、都は「排水管のため」だと答えていたのでした。

都の情報開示の姿勢に憤るジャーナリストの池上正樹氏は「実際にはおそらく(盛り土の決定者)がわかっているはず」「隠したい何かがあって、かばいたい誰かがいる」「まさにブラックボックス、伏魔殿」と語りました。

次に、建物内の柱を写した1枚の写真が画面に映し出され、ナレーションは以下のように語ります。

『こうした問題は、なにも地下空間だけではない。我々は、ある一枚の写真を入手。あれっ?柱が傾いている!』
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ここで番組のタイトルが15秒ほど挟まってから、再び問題の写真に戻り、ナレーションが以下のように語りました。

『これは、中央区の渡部恵子議員が、豊洲市場の加工パッケージ棟4階の柱を撮影した写真。左の柱が、傾いているように見える。これは目の錯覚か・・・この件を、ある都議が都の職員に質問したところ、

「柱の歪みは、カメラレンズによるものだ」
と回答した。

レンズ特性に詳しい、あるプロカメラマンに聞いたところ。
「レンズによる歪みは外側に行くほど大きくなるものですが、この写真は1直線で傾いている。レンズによる傾きではないと思います。」
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本当にカメラレンズによる歪みではないのか?そこで、二人の専門家に写真の分析を依頼。もし事実なら、致命的な欠陥の可能性があるという。(画面は屋外に立つ二人。画面右下に「今年3月竣工」などと表示)』

建築エコノミスト・森山高至氏は「普通(建物の)柱は曲がらないですよ。梁ともつながっているし。柱に問題があるとすると梁や床にも、全体に影響があるはずなので」と述べました。

日本地質汚染審査機構理事長・楡井(にれい)久氏は「地下なら起こりやすいけど、4階で(柱が傾くのは極めて珍しい)。(柱が)傾いていることは確かですね」と述べました。

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ここで画面は再び問題の写真を映し、ナレーションは『もし柱の傾きが、レンズによる歪みではなかったら問題だ』と語ります。

続いてナレーションが『同じような現象が、豊洲市場の玄関口、市場前駅・・・』と述べながら、森山氏(前出)が撮影した市場前駅建物内の写真を映し、「床には大きな隙間ができていて、窓枠も大きくずれていた」として、駅の建物に歪みが生じていることを示しました。

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森山氏は「いつどうなったかわからないが、経年変化で多少動きがあるのはあり得る」と述べ、楡井氏は「ここは人工地層と言いまして、人間が作った地層なんですよ。一部分では液状化、流動化している。人工地層は沈下しやすいから(地盤沈下)という傾向はあります」と述べました。

ナレーションは『ちなみに、市場前駅の隣、有明テニスの森駅では大きな隙間などは見当たらなかった。我々が調べた結果、地盤沈下らしき隙間が確認できたのは、市場前駅だけ。近隣の駅では確認できなかった』と述べました。

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続いて、豊洲市場の場所にあった東京ガスの工場で働いていた元職員への匿名のインタビューが紹介されました。彼らはそこで『驚きの地盤沈下を目撃していた(ナレーション)』といいます。元職員によれば、LPガスタンクの周囲の地盤が数年のうちに沈下して、タンクの基礎杭がむき出しになり、最後には人一人が入れるほどの隙間ができて、その隙間を埋める作業が繰り返されてきたとのこと。また元職員は、地下水から有害物質が検出された原因についても証言しました。

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大島由香里アナウンサー:「さて、この豊洲問題どうやって安全宣言出していこうかっていうことが問われている中で、VTRでもご紹介いたしましたが、豊洲の地下盛り土問題以外にも問題があるのでは、と疑ってしまうような写真、今回入手したんですね。(パネルに掲示した写真を示す)中央区の、渡辺区議から提供していただいたこの写真なんですけども、豊洲市場加工パッケージ棟のこちら、4階の写真なんですけれど、柱がですね、このように(手持ちのペンを右側の柱に合わせ垂直にする)真っ直ぐ立っている中で、この柱がちょっとこっちに傾いている(ペンを左の柱に近づけ傾ける)ようにも見える(須田哲夫キャスター:確かに見えます見えます、はい)写真があります。さらにこのようにヒビが入っている写真(床のコンクリート表面にヒビがあるように見える写真を示す)ですとか、ゆりかもめの市場前駅、見てみますと(市場前駅構内で撮られた写真を示す)階段部分などなどでですね、こういった隙間とか歪みというのが、見られたわけなんですよね。」

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須田哲夫キャスター:「う〜ん。森山さん柱の場合ですね、確かにカメラのレンズの歪みということも考えられるんですが、森山さんどう思いますか」

建築エコノミスト・森山高至氏「うーん、あの、まあ確かにこれ、ちょっと、妙なカタチに曲がってる、もし歪みがあるなら同じ方向にですね、上でこう梁でつながってますから、建物っていうのは(須田:二つが並行に見えないですね)そうなんです。だから四角なものが少し歪むとするとひし形にちょっと、っていう。ところがこれ、角度がね、違うので、非常にこうまあ、奇妙だなと。(須田:どういう見方もできちゃうってことですか?)あのー、例えばそのレンズの歪みだとか、そういったこと、なのかなあと。もしそうでなければ、はじめからこう、左の柱だけが、ちょっと位置が違っていると。垂直に立ったものが微妙にずれたと言うふうには何か思えない。」

須田:「なるほどねー。」

ここから話は地下水の問題に移り、議論が続きます。

2.10月9日、問題を認めた場面

問題の放送があった翌週の10月9日の同番組で、終盤の8時18分頃、「誤解を招いた」ことを認める説明がありました。ここでは、約1分半にわたって須田哲夫キャスターが一人で語りました。
『先週、豊洲市場の加工パッケージ棟4階で、9月に撮影された写真を紹介し、カメラのレンズによる可能性もありますが、柱が傾いているように見えるとお伝えしました。東京都はですね、番組の取材に対し、傾いていない4階の柱の写真を示し(柱を正面から撮った写真入りのフリップを表示)「10月2日、当該柱の現状を改めて確認したが、歪みや傾き、ひび割れなどの不具合は認められなかった」と回答しました。』
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その上で須田キャスターは、構造設計一級建築士の高野一樹さんと筑波大の蔡東生准教授のコメントを、顔写真つきのフリップを見せながら紹介しました。

『一級建築士の高野一樹さんは、「柱は床や梁が固定されているので、大きく傾くことは基本的にない。傾いているなら天井にもしわやひび割れが出る」と述べました。映像解析が専門の筑波大学・蔡東生准教授は、「スマホなどのカメラは非常に広角にできている。この特性で傾きが出てしまった可能性が高い」としています。こうしたことから、この柱が傾いて見えるのは、撮影の影響とみられます。』

続いて須田氏は、スタジオで用いられた写真が加工されていたことを説明。
『また、この写真を紹介した際、VTRでは、提供された写真をそのまま使用しましたが、スタジオでは右側の柱を垂直に合わせたため、左側の柱の傾きが結果として強調されることになりました。』

最後に須田氏は以下のように述べました。

『一連の報道により誤解を招いたことを、真摯に受け止めます。』
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3.放送法第4条に照らして

この度の報道は、一枚の写真のみを根拠にして、十分な事実確認をしないまま、当該建造物の柱が傾いているかのように強く印象づけるものとなっています。カメラのレンズによる歪みである可能性にも言及はしているものの、多くの場面で「柱が傾いている」ことを強調しています。また、市場前駅にある歪みや隙間について、十分な事実確認をしないまま「地盤沈下によるものと思われる」とした上で当該柱の件と結びつけ、さらに過去にこの場所にあった東京ガス工場の地盤沈下の例も援用して、豊洲における地盤沈下の影響で当該建造物の柱が傾いているかのように摘示していると言えます。しかし当該柱が傾いているという事実はなかったので、結果としてこの報道は、放送法第4条1項3号「報道は事実をまげないですること」に抵触する恐れがあるものと考えます。

4.検証者所感

この度の報道からは、豊洲移転を取り上げ、その欠陥を鋭く指摘すれば視聴率を稼げるであろうと、現今の流行に乗るべく躍起となった番組制作者が、一枚の写真のみを根拠に、十分な事実確認を待たずに豊洲市場の欠陥として公表を急いだ「暴走」を見て取ることができます。多くの視聴者が感じたであろう疑問は、なぜ一枚の写真を根拠に憶測ばかりを繰り返し、さっさと現場検証をしないのか、ということです。市場側に現場へのアクセスを申し込み、もし拒否されたら、そのこと自体にニュースバリューがあったはずです。現場で検証すれば、カメラの広角レンズが原因であることも即座に判明したでしょう。基本的な調査を行わず、いたずらに欠陥工事を想起させる「コメント」ばかりを集め、挙句の果てには「柱の曲がりが強調される操作が写真になされていた」では、あまりにもアンプロフェッショナルな番組制作であると断じざるを得ないのではないでしょうか?

翌週の10月9日に「誤解を与えた」ことを認めた場面では、最後に須田キャスターが『一連の報道により誤解を招いたことを、真摯に受け止めます。』と述べましたが、謝罪に類する言葉はなく、頭をさげることもなく、軽く頷くようにして目を伏せる仕草をしただけでした。この態度からは、番組側がこの件について謝罪する必要はないと認識していることが明らかであると思います。しかし、それで良いのでしょうか。

一枚の写真に対する、撮影者自身の思惑からくる誤解に、番組制作者の思惑が重り、悪意なしとしても結果として上述のように事実をまげた悪質な報道になってしまったのですから、謝罪のみならず、再発防止策の策定を約束する程度までは必要な事案ではないのでしょうか?

5.BPOの対応は?
「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない。放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる。」

これは「放送倫理基本綱領」(1996年9月19日 NHK民放連により制定)の中の一文です。

今回のフジテレビによる報道は「事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾け」たものとは、到底言えないと当会は考えますが、いかがでしょうか。そこで、「取材・制作の過程を適正に保つ」ために、BPO(放送倫理・番組向上機構)がこれを取り上げて指導力を発揮するかどうか、その対応の如何を注視したいと思います。

事務局長・小川榮太郎より

視聴者の会の放送時間の賛否バランスのパーセンテージが本当に正しいかどうかを検証してくれてゐる動画を発見しました。9月16日に絞りニュース23を全編早回ししながら項目ごとに時間計測をしてくれてゐます。極めて実証的でごまかしの利かない動画で、感動しました。ぜひご覧ください。

この動画の最後に「視聴者の会」の9月14~18日調べの賛成7%vs反対93%に対して、動画作成された方の調査が、9月16日の賛成14%vs反対86%で「意見広告と近い数字になりました」と検証を結んでくださつてゐます。

ちなみに、視聴者の会調べの数字でも9月16日については、賛成15%対反対85%で、この動画と殆ど同じ数字になつてゐることをお知らせしておきます。
我々は実証と客観性、判断の公平性を重視しながら仕事をしてゐますので、他の方々による再検証と批評を拒絶せず、むしろ歓迎します。

先日、東京新聞で「データに疑念がある」と記事に書かれたり、視聴者の会から1月に広告出稿依頼を出した朝日新聞からは掲載拒否の理由に「データへの疑義」が上げられてゐます。
残念なことはこれら大新聞が、データに疑念があるなら自分たちで再検証すればいいのに、検証せずに勝手に「疑義」と決めつけた記事を書き、また広告掲載を拒否してゐる点です。
言論機関として恥づかしくないのでせうか。

リベラル(?)マスコミやジャーナリストのみなさん、レッテル貼りではなく「実証」と「かみあつた議論」を大切にしませんか? その上で堂々と議論しませうよ。繰り返しそれを呼び掛けてゐるのに、遠くからの罵倒、否定、取材なしの推測ばかりが目立ちます。残念。