【放送監視レポート】政策の本当の目的を無視した政府批判 サンデーモーニング報道監視レポート(後編)

放送監視レポート

1月10日のサンデーモーニングのレポート後編、1964年の豚コレラへの対応と保健所行政の変遷について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・政治的に公平な報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。
——-
【VTR】(要約)
千葉県習志野市で55年以上前、今のコロナ禍と似たような状況があった。1964年の東京オリンピック直前、東京に隣接する千葉県の住宅街で18年ぶりとなるコレラが発生し、1人の死者が出る。コレラの感染拡大を防ぐため急きょ対策本部が設置された千葉県の船橋保健所を中心に、さまざまな対策が練られた。首都圏全体で市民およそ26万人を対象に予防接種が実施され、舩橋保健所の対策本部が軸となって不眠不休の対応が続けられた結果、死者が出てから1週間足らずで対策本部はコレラ終息を宣言する。それを可能にしたのは、保健所など地域に根差した医療の仕組みだった。
それから55年後。新型コロナウイルスの感染爆発を前に、保健所の対応に各所で問題が続出している。かつて保健所は地域の公衆衛生を担う役所と位置づけられていたが、1994年の法改正で保健所の統廃合と人員削減が断行。最大852あった保健所は大幅に減らされた。こうした保健所の縮小化が、新型コロナを巡る保健所職員の負担や混乱を招いた一因だという指摘もある。人々を震え上がらせた今回のコロナ禍の問いかけは、ポスト・コロナ後の医療の在り方、命の意味を問いかけているようにも見える。

——-
【パネル解説】
法改正によって保健所の数が1994年の800以上から今の469に減らされて、職員の数もおよそ6000人減っている。こうした減少の背景について日本医療総合研究所の寺尾氏は「国が公的医療費を抑制した改革を行ってきた。そして結核患者の減少を理由に、感染症の時代は終わったと政策転換を行った」と語った。

——-
【コメンテーターによる解説】(一部要約)
涌井雅之 氏:保健所だけじゃなくて、病院の状況も同じだと思うんですよね。日本は医療費は低くないし、病床は1000人当たり約12.3床と恵まれながら、医師の数は世界で第7位。つまり、緊急時の想定を外している。防災とか感染症とか、そうしたさまざまな緊急時の対応策、システムが軽視されているところに一番問題があるんじゃないでしょうか。(要約)

浜田敬子 氏:コロナ禍でも何とか持っているのは、現場の人の勤勉さとか使命感に頼り切って、リーダーたちが不都合な事実から目をそらして大きなグランドデザインを描ききれなかったことが大きいと思います。これは政治だけでなく企業でもそうで、経営者が大きな構造改革をできずに業績が悪くなり現場の人が切られていくといった、同じ構造がいろんなところで起きた結果が今回のコロナだったと感じています。(要約)

青木理 氏:緊急事態にちゃんと対応できてないと涌井さんもおっしゃったんですけどでも僕も記憶していますけれども前の首相が国民の生命と健康、財産を守るのが政治の役割だといって憲法に緊急事態条項が必要だとも言っていたんですね。ただ向かっている方向が少しおかしい、例えばイージス・アショアというミサイル防衛システムが駄目になったら僅か2カ月で敵基地攻撃能力をやりましょうという動きを自民党はやったわけで。それから学術会議の在り方も見直そうと言ったら僅か2カ月で独立させようという方向性を出してきた。選択的夫婦別姓なんかも許さんといってものすごい反対論が党内で起きるんだけど。他国を攻撃するとか、あるいは異物を排除するとか気に食わないものを排除するということにはものすごい政治エネルギーが注がれるんだけれどもこういうあまり、ある意味では地味かもしれないような公衆衛生のようなものなどは与党とか政府から、そういう声があんまり聞こえてこなくなっちゃうというね。政治の向かう方向、国民の健康とか国民の財産を守るもの、本当に守るものって何なのかというものがちょっと政治が劣化する中で、順序が倒錯している。政治家たちに見えなくなっている、あるいはどうも勘違いしちゃってるということが、一つのあらわれとしてこういうところにも出てきているのかなという気がしていますけど。

【検証部分】
今回は新型コロナウイルス感染症拡大に関連して、1964年の豚コレラの流行について報道された部分を取り上げました。
今回の放送では、青木氏から政治的に公平でない発言が見られました。

該当する箇所は、「ただ向かっている方向が少しおかしい、例えばイージス・アショアというミサイル防衛システムが駄目になったら僅か2カ月で敵基地攻撃能力をやりましょうという動きを自民党はやったわけで。それから学術会議の在り方も見直そうと言ったら僅か2カ月で独立させようという方向性を出してきた。選択的夫婦別姓なんかも許さんといってものすごい反対論が党内で起きるんだけど。他国を攻撃するとか、あるいは異物を排除するとか気に食わないものを排除するということにはものすごい政治エネルギーが注がれるんだけれどもこういうあまり、ある意味では地味かもしれないような公衆衛生のようなものなどは与党とか政府から、そういう声があんまり聞こえてこなくなっちゃうというね。政治の向かう方向、国民の健康とか国民の財産を守るもの、本当に守るものって何なのかというものがちょっと政治が劣化する中で、順序が倒錯している。」という部分です。
この部分での青木氏の指摘は大きく2点あります、
1点目は、他国への攻撃、異物の排除といったことには政治的なエネルギーが強く注がれているということ、2点目は一方で公衆衛生の問題はおざなりになっているということです。

まず1点目についてです。他国への攻撃、異物の排除の具体例として青木氏は防衛力の拡大、日本学術会議を挙げています。しかしこれは他国への攻撃、異物の排除を最終的な目的として議論が行われたものではありません。
イージス・アショアは当然のことながら日本を守るためのものです。敵基地攻撃能力も同様に、敵の基地を攻撃することを目的としているのではなく、能力を持つことによって抑止力を高めようという狙いがあります。つまり最終的な目的は日本の安全を守ることにあり、政策として優先順位が高くて当然のものといえます。
また日本学術会議が異物の排除の具体例として挙げられていると考えられますが、これも一方的な見方だといわざるを得ません。日本学術会議の見直しは、排除を目的としたものではなく、公的機関としての立場と独立機関としての立場が混在してあやふやになっている現状を改善するためのものです。

つまり防衛能力の増強、日本学術会議の検討プロジェクトのいずれも、他国を攻撃、異物を排除といった目的から行われたものとはいえません。

次に2点目の、公衆衛生の問題がおざなりにされているという指摘についてです。
青木氏はこのように指摘していますが、実際に公衆衛生の分野でもさまざまな改善が進んでいます。例えば保健所業務の効率化や、業務継続のための体制整備が行われています。また感染者の適切な隔離措置などの整備も進められてきました。
このような議論が表立って取り上げられない理由としては、公衆衛生の分野は誰もが必要と考えるものだからです。敵基地攻撃能力や日本学術会議の問題は、改善が急務な一方で賛否両論あるのも確かです。それに対して公衆衛生の向上は、基本的に反対する人は少ないですから、粛々と行われてきた面があります。

青木氏は、実際には公衆衛生の整備が進んでいることを考慮せずに、それが後回しになっているとの批判をしています。

今回の放送では青木氏から、政府の公衆衛生の整備、防衛力の拡大、日本学術会議の問題について、一方的な見方からなされた主張が見られました。
これは政府を批判するのに都合のいい見方からのみ分析されたもので、政治的に公平ではありませんでした。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

————————————————————————————–
放送法4条
(2)政治的に公平であること
————————————————————————————–

新・視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

関連記事

アーカイブ