【放送監視レポート】政府によるコロナ対策の根拠を無視した批判 サンデーモーニング報道監視レポート(前編)

放送監視レポート

1月10日のサンデーモーニングのレポート前編、1都3県への緊急事態宣言の発令について報道された部分です。

今回検証するのは以下の点です。

・さまざまな論点を取り上げた報道であったか

まずは放送内容を確認していきます。
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【VTR】(要約)
1月7日木曜日、東京都で初めて新規感染者が2000人を超え全国でも過去最多となる中、政府は1都3県に緊急事態宣言を発表した。去年春の緊急事態宣言より飲食店に的を絞って行われる今回の対策は、来月7日まで続く。それでも感染者が減らなかった場合、期間の延長を想定しているのかと菅総理が問われると「仮定のことは答えかねる。とにかく1か月で感染拡大防止をしたい」と返答。また、来月下旬までにはワクチンの接種を始めたいとして、東京オリンピック開催についても改めて前向きな姿勢を示した。
また政府は、飲食店に午後8時までの時短営業を要請。応じた店舗には協力金が支払われるが、飲食店は苦渋の選択を迫られている。飲食を巡っては与野党の国体委員長、国会議員の夜の会食を午後8時まで4人以下などとするガイドラインを設ける方針で合意したが、結局ルール化を断念した。
一方、医療体制のひっ迫は患者たちに影響を与え始めており、持病もちの患者が自宅療養を指示される、救急患者が病院をたらい回しにされるといった事態が発生している。
 感染拡大を食い止めるため、緊急事態宣言の発表とともに要請された外出自粛や時短。しかし、宣言初日の夜の人出を去年4月の緊急事態宣言後と比べたところ、都内の繁華街の多くで大幅な増加が見られた。東京では3日連続で感染者が2000人を超え、全国では死者数が1月9日時点で4000人を超えた。止まらない感染拡大に、地方でも大阪府、京都府、兵庫県の知事らが国に対し緊急事態宣言の再発令を要請している。感染爆発の局面を変えることができるのか。日本は今、正念場だ。

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【パネル解説】
金曜日から始まった緊急事態宣言。前回と同様に、飲食店・酒類を提供する店に対して時短要請が行われた一方、前回は幅広い業種で行われた休業要請が今回はない。そしてイベント開催について、前回は自粛・中止要請が行われたが、今回は規模を制限したうえで開催可能となっている。京都大学の西浦教授が試算したところ、何も対策をしなかった場合、東京都の新規感染者は3月の終わりには7000人を超えてしまう。西浦教授が1月6日にこの試算を発表した際は、東京都の実効再生産数、つまり1人が何人に感染させるかという数字を1.1程度で計算していた。しかし、現在は連日2000人を超えており、このときと比べて感染が急拡大している。感染者数を抑えるためには前回の緊急事態宣言と同程度の厳しい対策をする必要があり、今、政府が行っている飲食店などへの時短要請では感染者は減らず、横ばいとなってしまうと危惧している。

【コメンテーターによる解説】(一部要約)
関口宏 氏(以下関口氏):今朝、松本先生につながっております。これだけ見ると、前回の緊急事態宣言よりもぬるいという感じがしてしまうんですが、そうですか?

松本哲哉 氏(以下松本氏):前回の緊急事態宣言に比べ、今回、飲食以外は今までとあまり変わらない。職場はリモート7割と言っていますがこれもあくまで自粛の要請でしかない。全体的に、多くの方が本当に緊急事態だと受け止めるような対策になっているのかどうかというところが疑問です。(要約)

関口氏:じゃ、どうしてもうちょっときつめの緊急事態宣言にならないのかと思ってしまいますがなぜなんでしょう?

松本氏:結局、これまでの政策そのものが非常に場当たり的だと私は思っています。かなり感染者が増えてからようやくGoToトラベルキャンペーンをやめ、それでも落ち着かず緊急事態宣言を出した。その1か月後にどうするのか総理が聞かれても、仮定の話なので言えないと。本当に長期的な視点での計画を立てておりませんし、経済のことを考え緩い施策がずっと取られてきましたので、感染者数を抑え込めないまま現状に陥ってしまったということだと思います。(要約)

寺島実郎 氏:緊急事態宣言というのは国民としてこれに真摯に向き合わなきゃいけないことは間違いないと思います。ただ、去年の1月16日に最初の感染者が出てから来週でいよいよ1年になるわけですよ。1年になって結局、対策って自粛要請、つまりステイホームだけですかと。政策科学的なことをこの1年間、どうやってきたのか。どういうことっていうと、国民が本当に安心…、例えば医療崩壊って盛んに言われますよね。首都圏の重症病床を調べてみると、631から924まで、たしかに5割近く増やしたんです。だけどこういう状況下で5割ぐらいでいいの?と。そう簡単に増やせませんよと。病院なんてすぐに拡充できるわけじゃないからとかマンパワーの制約もある、だけど1年かけてどんなことがあっても2倍、3倍にするんだという政策を打ってくるんだと、そういう意味で、政策科学的なきちっとした説明を尽くすと、これだけ努力しているんだ、病院についても、民間病院の活用も含めて。そういう体系的な政策を語らずに自粛要請ばかり来るから国民としては、ただどうしたらいいの?というストレスだけがたまってくというか、国民を安心させる努力のプロセスをかたなきゃいけないんです。

浜田敬子 氏:東大の渡辺先生が昨年の4、5月の調査をして、政府の直接的な政策による介入の効果よりも、人々がみずから情報を得て、その情報によって自主的に行動を変えた方がはるかに大きかったという研究結果を出しております。つまり今回も督促による強化は非常に薄くて、強制力による効果よりも、人々の利他心に訴えるメッセージをどのようにリーダーが出すかが非常に重要だとおっしゃっています。リーダーがそういう言葉を発することができないのであれば、例えばメディアが納得できるデータを見せるとか行動を変えることによって、こういうことが行われるということを見せていくしかないのかなと感じています。(要約)

安田菜津紀 氏:緊急事態宣言の中身自体を見ていくということがとても大切なことだと思うんですけれども一方で、宣言は出さなくても本来、政府ができるはずのことが一体どこまでできているのかというのも置き去りにしたくない点だと思います。例えば年末年始というのは、日雇いの仕事が減って、ただでさえぎりぎりの生活をしている方々が路上に追いやられがちな時期で、コロナ禍というのが雇用状況に輪を掛けて、その状況を悪化させているので先回り先回りした対策は本来できたはずなんですよね。ところが現場に取材に行ってみると、困窮者の方々の相談会だったりあるいは食料配布というのは民間団体が中心で、そこに十分な公助の姿が見えてこない。掲げられてきた自助、自助というものの綻びがこの宣言によって、むしろはぐらかされないかというところも、私たちから直視していかなければならないところではないかと思います。

【検証部分】
今回は緊急事態宣言の再発令に関する報道を取り上げました。
今回の放送では、寺島氏、安田氏から、視点の偏った報道が見られました。該当する箇所を順に確認します。

寺島氏からは、政府の感染対策について政策科学的なアプローチからの対策がされていない、政府は対策なしに国民への自粛要請ばかりであるという批判がなされました。

しかし、実際に日本が感染対策のために行った政策はさまざまあります。現在、国民全体の間に浸透している3密という言葉も、感染対策を効率よく実施するという観点から提案され、周知が進んだものです。また、感染拡大を食い止めつつ経済、雇用を守るために、ロックダウンを避け、自粛要請などは最小限に抑えつつ、感染リスクの高いものへのピンポイントの対策を積極的に行ってきました。感染リスクの高いものについても、例えばプロスポーツのように、科学的なデータに基づいて危険のない範囲で有観客での開催をしてきました。これらの政策科学的なアプローチによって、第3波の到来までは3密や接触感染のリスクを避けさえすれば、日常生活を大きな支障なく送ることができました。

このような事実を踏まえると、寺島氏の指摘は、政府の対策に関して一面的な見方で、緊急事態宣言、自粛要請といった一部の出来事にのみ注目した発言といえます。

次に安田氏の指摘についてです。安田氏は、政府は必要な対策を講じておらず、それによって生活困窮者の状況が悪化していると指摘しています。

たしかに、現在の政府の対策は不十分だという意見もありますが、実際に政府の対策を見れば必ずしもそうとはいえません。
例えば、日本政府の新型コロナ対応に関わる経済支援は、昨年11月時点で233.9兆円であり、対GDP比の42%に上ります。比較対象として、日本以上に経済活動への自粛要請や規制の厳しいイギリス、ドイツの支援は、それぞれ対GDP比で26%、37%となっています。
実際に支援の内容としては、生活が困窮した個人に対しての支援として、ひとり親世帯への臨時給付金、緊急小口資金・総合支援資金などがあり、また事業に影響が生じた事業者に対しては持続が給付金などの支援制度が整えられています。

それでも困窮者が増えつつある現状について、制度の存在を知らないことなどにより支援制度にアクセスできないという課題が指摘されています。この課題については、政府が周知を徹底することも必要ですが、メディアなど政府以外の人々が果たす役割もあると考えられます。

しかし安田氏は、そのような現状には言及することなく、政府の対策が不足していると非難しています。「宣言は出さなくても本来、政府ができるはずのことが一体どこまでできているのかというのも置き去りにしたくない点だと思います」とは指摘するものの、何ができるかという具体的な内容については示されませんでした。
つまり安田氏は、現在の政府の政策を評価せず、困窮者の現状のみを見て政府の対策が足りないと指摘しています。

今回の放送では、寺島氏、安田氏から、政府に対しての多角的な視点を欠いた指摘が見られました。

このような放送は次の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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新・視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して監視を続けてまいります。

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